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東京高等裁判所 昭和51年(う)2337号 判決 1977年5月10日

主文

1原判決を破棄する。

2被告人を懲役一年に処する。

3原審における未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入する。

4押収してある普通預金払戻請求書一通(当庁昭和五一年押第九〇三号の一)の偽造部分を没収する。

理由

<前略>

控訴趣意第一(訴訟手続の法令違反等の主張)について

所論にかんがみ、記録を検討すると、原判決は、原判示第二、第三の各事実について、被告人が高橋某と共謀のうえ、原判示の日時場所において原判示の白黒テレビ一台、背広二着及び普通預金通帳一冊を窃取した、との公訴事実に対し、右各犯行がいわゆる共謀共同正犯に当ると解したうえ、右共謀の事実については被告人の自白のほかに補強証拠が存しないとして、これを理由に、原判示のとおり、被告人は高橋某が右各物件を窃取するに際し、各犯行現場付近路上まで同人と同行し、同所で同人のため見張りをし、その犯行を容易ならしめてこれを幇助した旨認定し、窃盗幇助罪の成立を認めるにとどめているのである。

しかしながら、記録によると、被告人は、高橋某なる者(所在不明)の発案により、同人と共謀のうえ窃盗を企て、同人が原判示第二、第三のように各被害者アパートにおいて窃盗を実行するに際し、いずれも現場付近の路上に臨み、原判示第二の犯行には被害者アパートの入口付近で、同第三の犯行には被害者アパートの入口を見通せる約二〇メートル距つた路地入口付近でそれぞれ見張りをしたうえ、窃取した賍物の処分は被告人が担当し、即日、テレビ、背広についてはいずれも質商斎藤邦夫方において合計一万五〇〇〇円で入質し、普通預金通帳については、原判示第四のとおり、これを利用して銀行において金六〇〇〇円の預金払戻を受け、その都度高橋と両名で飲食費等に当てこれを費消した、という事実を認めることができる。そして、被告人は、捜査段階において自白し 右認定の事実のすべてにわたり供述していることは原判決挙示の被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書によつて明らかであり、これに対応する被告人の自白を裏付ける客観的証拠としては、原判決挙示の、被害状況に関する被害者作成の各被害届、被害品確認書及び司法巡査作成の各実況見分調書が、また、賍物の入質処分状況に関する質商斎藤邦夫作成の各質取てん末書及び上申書(入質者が被告人本人であることは証拠上明らかである。)がそれぞれ存在するのであるから、本件事案においては、窃盗の共謀の点を含めて、被告人の自白に対する補強証拠に欠けるところはないと解すべきものである。

しかるに、原判決は、本件において共謀の事実についてそれを直接裏付ける補強証拠が欠けていることを理由に、被告人につき窃盗罪正犯の成立を否定したのであるから、補強証拠に関する刑訴法三一九条二項の解釈適用を誤つたものというべく、その違法は判決に影響を及ぼすことは明らかであり、これら事実とその余の原判示各事実を併合罪として処断した原判決は、その全部について破棄を免れない。したがつて、原審の訴訟手続の法令違反をいう点について、論旨は理由がある。

<以下略>

(牧圭次 寺澤栄 永井登志彦)

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